<スポンサーサイト>

2010年12月12日日曜日

裁判

 テレビドラマでよく見るシーンですが、まず初めに被告人が中央に立ち、裁判官から被告人に氏名・年齢・職業・住居・本籍を尋ねます。あれと全く同じ状況で、私も人定質問を受けました。その後検察側から起訴状の朗読があり、被告人が誰であるか、被告人がいつどこでどんな悪いことをしたか 、それは何法の何条の何罪にあたるのか、などを結構な早口で読み上げられます。この時は、目つきの悪い太った検事ではなく、隣に座っていた若い女性検事からでした。どうやらこの方も検事のようで、まだ見習いなのか時々隣のデブに文章を確認したりしながら、つっかえつっかえの朗読でした。
 そして裁判官から「被告人は自分に不利になるよ うなことは言わなくていい」ということを伝えられます。これは別に言わなかったとしても被告人に不利にはならないという事も含まれます。
 裁判官から実際に起訴状にあるような悪いことをしたのかどうかを確認され、私は起訴状通りであることと反省していることを、弁護士から書かれたシナリオ通りに話します。ここで内容の一部が違うとか否認となると、検察と弁護側が争う形になりますが、私は無免許運転の常習者であり、検事がよみあげた起訴状は、非の打ち所のない完璧なものでしたので、「そのとおりです。」と平伏さんばかりに頭を下げました。
 そして弁護人から被告人質問があり、これも事前に弁護士が用意したシナリオにしたがって、打ち合わせ通り進められます。
 以下、私の上申書を元に弁護士さんが作った、事前に送られた被告人質問のシナリオの一部です。

       <事件について>
・あなたは、今回、世田谷区三軒茶屋の路上で無免許運転の現行犯で捕まってしまったわけですが、なぜ、○○市在住のあなたが世田谷区内を走っていたのですか?→世田谷区内に仕事上のお客様がいて、仕事で見積もりに伺う途中でした。
 ○○市在住のあなたが不案内な東京都内を無免許で走ることに躊躇はなかったのですか?無免許なんだから電車で行こうとは思わなかったのですか?→もちろん躊躇はありました。でも、その日はちょうど体調をくずして昼まで家で寝込んでいましたし、お客様の家が最寄り駅から遠かったからです。
体調が悪かったのはともかく、駅から遠いからというのは理由になると思いますか?→いえ、今では電車でいくべきだったと思っています。とても反省しています。
  警察官に無免許であることがわかってしまったきっかけは何でしたか?→進路変更禁止の場所で進路変更をしたことです。
     警察官から免許提示を求められたときはどのような気持ちでしたか?→すぐに仕事のこと、家族のことが頭に浮かび、後悔の気持ちで目の前が真っ暗になりました。
     あなたは、社会人として法律を遵守するという当たり前の意識に欠けているとは思いませんか?→3人の子供の父親なのに、社会のルールが守れなかったことをとても恥ずかしいと思っています。今回、検挙されてしまったのは、当然の結果だと思っています。
      
     <家族関係>
     あなたは奥さんの他、3人の子供がいるとのことですが、肉親はそれだけですか?→いえ、一緒に住んでいるのは私をいれて5人ですが、自宅から車で10分くらいのところに両親が住んでいます。弟が2人と、別れた妻との間に3人の娘もいます。
     3人の娘さんとは会ったりすることはあるのですか?→ここ10年近く会っていません。
     前の奥さんと別れた原因は何だったのですか?→私は現在の会社を始める前は、父の経営する建設会社にいたのですが、その会社の経営が苦しくなって、妻の実家に100万ほど借金したのがきっかけです。
     奥さんが自分の実家に借金をしたことに怒ったということですか?→いえ、怒ったのは、妻の実家の方で、100万を貸すかわりに妻と娘達を里帰りさせるのが条件だと言って妻たちをひきとってしまいました。
     奥さんたちが実家に引き取られてからはどうしていたのですか?→妻のところに毎週週末に必ず行っていました。
     では、なぜ奥さんと別れたのですか?→離れて住むうちに妻が浮気をしたからです。
     奥さんの浮気相手とは交渉はしたのですか?→はい。妻の浮気が発覚してから,妻の浮気相手に、自分にも妻子がいるので40万円で示談してくれないかと言われました。
     40万は受け取ったのですか?→いえ、その男に、金はいらないからどうか妻と別れてくれといいました。でも,妻のほうが心変わりしてしまって離婚せざるを得ませんでした。
     では、次に今の奥さんとの生活について聞きます。今の奥さんと再婚する際,奥さんの連れ子に障害があることを知って再婚したということですよね?→はい,長男の発育が同世代の子供よりかなり遅れていたことは,私も子供を育てたことがあったので,よくわかっていました。
     そのようなお子さんがいるのに,再婚についてのとまどいやためらいはなかったのですか?→はい,一人で障害のある子供を抱えている彼女を助けたいという気持ちが先でしたし,私自身も離婚して,とても寂しい毎日だったからです。父には反対されましたが,絶対妻と子供を幸せにしたいと思いました。
     奥さんの証言では,あなたは連れ子の長男の面倒をみているそうですが,あなたは父親としての義務感で面倒を見ているのですか?→いえ,そうではなく,長男がかわいいからです。よく私と長男は顔が似ているともいわれます。
     お子さんは養護学校に行っているそうですが,歩けないのに,どうやって学校に行っているのですか?→車で送り迎えをしています。
     だれが車で送り迎えをしているのですか?→ほとんど妻ですが,妻の負担を少しでも軽くしようと思って私が送り迎えをしたこともあります。申し訳ありません。
      
     <あなたの仕事について>
     あなたはさきほど,お父さんの建設会社で働いていたといいましたが,その会社はどうなりましたか?→2回の不渡りを出して,結局倒産してしまいました。
     いつ倒産したのですか?→平成13年で,妻と入籍する1ヶ月くらい前でした。
     弁第1号証によると,あなたはお父さんの会社の連帯保証人になって,保証債務の支払いをしたようですが,いくら払ったのですか?→旧会社名が日栄で,今はロプロという会社から,500万円を支払えと言われ,5年かけて全額払いました。
     それはお父さんの会社が倒産したあとですか?→はい。
     そのころあなたに500万円払う余裕はあったのですか?→いえ,父の会社が倒産した平成13年に自分の会社を作ったばかりで,その年に今の妻とも再婚したので,経済的にはとてもきびしかったです。
     それなのに払ったのはなぜですか?→ヤクザふうの男が2人連れで私の会社にまで押しかけてきてすごむので,会社と社員を守るため,払わざるを得ませんでした。
     お父さんの関係で借金を払ったのはそれだけですか?→あと,父の友人もしょっちゅう会社にやってきて金を返せというので少しずつお金を渡していました。
     その借金についても連帯保証人になっていたのですか?→いいえ、でも法的には払う義務はなくても、父が迷惑をかけた以上、払わざるをえませんでした。
     その人にはいくらくらい払ったのですか?→100万以上は払ったと思います。
     お父さんからは少し返済はあったのですか?→いえ,ありませんでした
     今回のあなたの逮捕で辞めた従業員はいますか?→事務をやっていたSさんという人がいましたが,私の逮捕のせいで会社の業務が止ってしまったため,やめてしまいました。
     会社の経営はあなたがほとんどとりしきっているのですか?→現場の仕事は外注に出すこともありますが,注文をとってお客様と打合せをしながら設計を行う段階まではほとんど私が一人で指図しています。外注に出した分も必ず私が最後チェックを入れてから完成させます。
     あなたが,もしまた身柄を拘束されるようなことになったら,会社はどうなると思いますか?→約1ヶ月私がいなかった間でも業務が止ってしまっていたようですので,つぶれるしかないと思います。
     奥さんがあなたのかわりに働きに出ることはできないでしょうか?→障害があってとても手のかかる長男や2歳の小さい子供がいるので,ここ何年かは無理だと思います。
     あなたが無免許運転をすること自体がそもそも許されないことですなのですから,もしあなたの身柄が拘束されて,会社がつぶれたり,奥さんと小さい子供たちが路頭に迷うことになってもすべて自分の責任だということはわかっていますか?→全て自分の責任です。大勢の人に迷惑をかけて,本当に申し訳ないと思っています。
      
     <前科前歴について>
     取り消しになっても欠格期間がすぎれば免許を再取得できるはずですが,どうして再取得しなかったのですか?→仕事が忙しかったりして取りに行きませんでした。また、免許取消しの欠格期間が終わって再取得が可能になった平成16年12月には、元請け会社の社長に200万円持ち逃げされたりして、教習所に行けるような状況ではありませんでした。
     でも、どのような理由があったとはいえ、きちんと再取得していれば,法律違反にならなかったのですから,仕事が忙しいとか、お金がなかったとかは理由にはならないのではないですか?→本当にそう思います。再取得しない以上、運転は許されないことなのですから、再取得するまで運転すべきではありませんでした。
    道路交通法違反も立派な犯罪だという認識はないのですか?→本当に社会人として遵法精神に欠けていたと思っています。申し訳ありません。
      
     <反省>
     最後にあなたの反省についてもう一度確認しますが、あなたが法律を守らなかったために,家族や会社の人にどれだけ迷惑をかけたか本当に認識していますか?→今回のことでもう,骨身に染みました。
     あなたが大変な迷惑をかけたにもかかわらず,今回,快く嘆願書を書いてくださったり,証人として出廷してくださった従業員の方についてどう思っていますか?→みんなに迷惑をかけたこんな私を支えてくれて,本当にありがたくて感謝の気持ちでいっぱいです。
     車の運転について今はどのように考えていますか?→今後は,いつの日か免許を再取得できる日がくるまで,絶対に車は運転しません。
     再取得できるまで相当時間がかかると思いますが,今回つかまったときに乗っていた車はどうするつもりですか?→当分乗らないのですからもちろん処分します。
     車がなくて、どうやって仕事場に行ったり、お得意先を回るのですか?→仕事場には自転車で行きます。今回のことで、会社の人たちにも私が無免許であることがわかってしまったので、もう会社に車を運転していくことは絶対にできません。お得意先へも従業員に連れて行ってもらうつもりです。
     長男の養護学校の送り迎えはどうしますか?→私はもちろん運転できませんが、それでは妻が大変なので、私の両親に妻を助けてくれるよう頼むつもりです。
     今までもそうすべきではなかったとは思いませんか?なぜ、もっと前にそうしなかったのですか?→自分が無免許であることをまわりに言えなかったことも原因です。今回のことで、かなり大勢の人に私の免許取消しがわかってしまったのはよかったと思っています。
     もう二度と道路交通法違反を含む犯罪行為は行わないと誓えますか→はい、もう二度と社会のルールを破るようなことはしません。これからは、社会人として、父親として、恥ずかしくない生き方をしたいと思っています。

   上記のような内容で、弁護士さんが私が書いた上申書を元にシナリオを作成し、私はこれを必死に覚えましたが、家族関係の質問に入り、前妻の実家に借金をしたことについての質問をされた時でした、裁判官が「弁護人、今回の事件に関係のない質問はしないように」と釘をさされ、それ以上この内容について先に進むことができなくなってしまったのです。
   そして、間をとばして<あなたの仕事について>の質問になり、私の父の会社が倒産し、その借金を保証人として支払った話になったときも、再び弁護人に対して裁判官から注意を受けたのです。
   この時も、弁護士はこの話を先に進められなくなり、間を大幅にとばして<反省>の質問に移りました。
   この時点で、私は予想外の流れに緊張してしまい、頭が真っ白になってしまいました。
   最後には、覚えていたはずの答えを忘れてしまい、しどろもどろになりながら、なんとか被告人質問を終えました。
   その後、妻とWさんに対する情状証人質問があり、これも事前のシナリオ通にはいかず、二人とも緊張のため、正確に答えることはできませんでした。
   そして検察側からの質問を、私と妻とWさんの順番で受けましたが、かなりキツイ質問が多く、何度も同じ事を聞いたりするので、かなり気が滅入ってしまい答えられなくなってしまう場面もありました。
   そして検察側から証拠調べがあり、最後にそれらの事由から実刑7ヶ月の求刑がありました。

   1時間半におよぶ裁判が終わり、私たち3人は疲労感でいっぱいでした。それと同時に、弁護士の不甲斐なさ、頼りなさに余計に気持ちが萎えてしまいました。情状酌量を求めるための方策は失敗に終わったのです
   弁護士さんからは、精一杯やったと思うと言われましたが、3人とも検事の勢いの方がかなり上回っていたことを感じており、実刑はまぬがれないだろうと諦めていました。
   外に出ると、大粒の雨が降っていて、私たちは弁護士と別れ、しばらく無言のまま駅に向かいました。

0 件のコメント:

コメントを投稿