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2010年12月3日金曜日

4月2日(金) 22日目 午前10時40分

 日記より

 夕べから外は強い風邪が吹いており、ビルの谷間をぬける風邪の音がうるさくて、なかなか寝付けなかった。房から見える曇りガラスの向こうは曇っているのだろう、白と灰色で濁っている。
 ここに来て4度目の入浴日だった。昨日、妻が差し入れてくれた新しいスエットの上下を着た。
 夕べ、第4居室に一人、隣の第5居室に一人、新しい人が入った。ここでは「新入り」と呼ぶ。この場所にとても馴染んでしまう「新入り」という言葉の響きが、どうしても好きになれない。
 この房の同居人は、何故かさっき調べに呼ばれて行った。火曜日に起訴になっているのだから、調べはない筈なのだが。また別件で起訴されるのだろうか。
 彼は調べから帰ってくると、いつも機嫌が悪い。相当きついことを言われるらしいのだ。何日か前は、「Your father is bad!  Your mother and wife and chirld and grand father is bad!!」と言われ、刑事と目も合わせずに黙っていたと言い、その後声をあげて泣いていた。
 容疑者とは言え、人権を無視したそんな取り調べをしていいのだろうか。彼は人種差別だと言っていた。弁護士がくれた、日本人用の旅行者ポケットスペイン語会話の辞書を見て、「人種差別」という言葉を探り当てたのだ。刑事にも「アナタハ ジンシュサベツダ!」と言ったらしいが、刑事は薄ら笑いで、「No,no.」と言っただけらしい。刑事は、「私とあなたは友達なんだから、全てを正直に話してくれ。そうしないと、友達として私は悲しい。」などと言うこともあるらしい。その後、意味の分からないことを怒鳴り出すが、一切無視していると言っていた。
 彼はパスポート偽造と盗みで逮捕されている。去年の年末にコロンビアから日本に、出稼ぎ目的できたらしい。コロンビアから日本へは、ビザがないと入国できず、ほとんどのコロンビア人はメキシコ人の偽造パスポートを、10万円程度で作って日本に入るらしく、彼も当たり前のように、そうして日本に入国したそうだ。
 日本に着て3日目に、三軒茶屋近辺で仕事を探しているときに、3人のコロンビア人に出会い、同郷ということでいろいろ話をしていると、仕事を探しているなら一緒に住もうと言われて、彼らが住んでいる2DKのアパートに一緒に住むことになったらしい。それが、ある日突然大勢の警官がアパートにやってきて、「盗み」をはたらいたとして、彼を含む5人のコロンビア人は訳も分からないまま、手錠をかけられて逮捕されたというのだ。彼は全く身に覚えがないと言う。
 他の4人のコロンビア人は、みんな別々の刑務所に留置されているらしい。
 その後の取り調べで、全員が偽造パスポートでの不法侵入であることもわかってしまい、彼はそのことは認めているのだが、盗みはやっていないと言う。
 刑事の話によれば、どうやら他の4人は前から目を付けていた窃盗団の一味らしく、彼らが全員同罪だと言っているために、彼も巻き込まれてしまっているらしいのだ。
 彼は拘留されて2ヶ月近くになるが、いまだに盗みは認めておらず、しかし刑事や弁護士からも、実刑となり3年以上は刑務所にはいらなければならないと、決めつけたように言われていると言う。
(つづく)

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